石川県羽咋市の邑知潟に沿った地溝帯で浸水被害が大きかったようだ
富山県氷見市から宝達丘陵を挟んだ反対側の石川県羽咋市の低地地帯も浸水被害が大きかったようです。
この周辺は邑知潟平野と呼ばれており昔は湖だったようなところです。
そういう意味では氷見市の「布施水海」に似ていると言えば似ているのでしょうが地形条件は少し異なるようです。


“周囲と行き来できず” 大雨被害 石川・富山で相次ぐ【詳報】 | NHKニュース | 大雨情報、気象、石川県
邑知潟平野の被害状況をまとめてもらった
2026年8月27日の北陸地方記録的大雨における石川県羽咋市(はくいし)の浸水範囲と、それを引き起こした地形・地質的要因について、災害対応専門家の視点から調査・分析をまとめました。
羽咋市における水害は、隣接する富山県氷見市と同様に「観測史上1位の大雨」が引き金となりましたが、その浸水メカニズムと被害の広がり方は、能登半島の付け根に位置する**「邑知地溝帯(おおちちこうたい)」特有の地形・地質構造**と深く結びついています。
1. 羽咋市の災害概況と浸水範囲
- 猛烈な短時間豪雨と史上最高雨量: 27日朝、羽咋市付近では5時20分までの1時間に約100ミリの猛烈な雨が降り、記録的短時間大雨情報が発表されました。24時間雨量は一時337.5ミリに達し、観測史上1位を記録しました。
- 主要河川の決壊・氾濫: 国土交通省および石川県の報告によると、羽咋市内を流れる二級河川・羽咋川水系の支川である**「飯山川(いいざわがわ)」と「金丸川(かねまるがわ)」**の堤防が決壊しました。
- 浸水エリア: 飯山川の決壊等に伴い、周辺の飯山町や東潟町、千代町(ちよまち)、羽咋駅周辺などの市街地や住宅街一帯で大規模な浸水が発生し、多くの住宅が床上・床下浸水(把握できているだけで床上浸水80件以上)の被害を受けました。道路冠水によって車両が水没し、ボートによる救助活動も行われました。
- 山間部での孤立: 局地的な斜面崩壊により、山間部の神子原(みこはら)地区で200世帯が一時孤立状態となりました。
2. 羽咋市を襲った「地形・地質的要因」の分析
羽咋市でここまで激甚な浸水被害が発生した背景には、以下の4つの地形的・地質的弱点が存在します。
① 邑知地溝帯(邑知潟平野)が形成する「超低平地」
能登半島の基部には、北西側の眉丈山(びじょうざん)系と南東側の石動山(せきどうざん)系に挟まれた、クッキリと細長くのびる幅平坦な低地 「邑知地溝帯(邑知潟平野)」 が走っています。この平野の南西部には、かつて 「邑知潟(おうちがた)」という広大な入江(汽水湖) が羽咋市四柳付近まで深く入り込んでいました。昭和以降に大規模な干拓・排水改良事業によって現在の水田地帯や市街地へと姿を変えましたが、地盤は時代の新しい砂や泥が溜まった非常に軟弱な沖積層(旧湖底・底湿地跡) です。 そのため、市街地である千代町や羽咋駅周辺などは、海抜が数メートル以下と極めて低く、本質的に「水が溜まりやすく、はけにくい」皿の底のような地形をしています。
② 流入河川の「天井川(てんじょうがわ)化」と土砂・流木の閉塞
邑知潟平野を取り囲む山地(特に南東側の宝達丘陵・石動山断層帯)は、地質的に崩壊しやすく、多くの崩壊地形・地滑り地形を抱えています。 大雨が降ると、山から大量の砂礫や流木が急流に乗って一気に平野部へと押し寄せます。これらの土砂が堆積し続けた結果、地溝帯へ流れ込む支川(飯山川や金丸川など)の多くは、川底が周囲の地面よりも高くなっている「天井川」 の状態になっています。 今回の豪雨では、上流部から押し寄せた流木や土砂が川をせき止め、行き場を失った水が天井川の堤防を乗り越えて一気に周囲の低地へ吹き出しました。天井川の決壊(飯山川・東潟町付近、金丸川・金丸出町付近)は、通常の河川氾濫よりも激しい勢いで水と砂泥が住宅地に流れ込むため、被害が瞬時に拡大する要因となりました。
③ 本流「羽咋川」の水位上昇に伴う排水限界(バックウォーター現象)
平野部の水はすべて「羽咋川」に集まり、日本海へ注がれますが、羽咋川本川も非常に勾配が緩やかで水位が上昇しやすい川です。 本川の水位が急激に高まると、支川である飯山川や金丸川からの流れが遮られ、水が押し戻されるバックウォーター(背水)現象が発生します。これを防ぐための逆水止樋門や排水機場が設けられていますが、今回の「1時間100ミリ」という猛烈な雨は、下水道や側溝から河川へ排水する能力を遥かに超えていました。これにより河川からの逆流と、街のなかに水が溢れる「内水氾濫」が同時に発生する最悪のメカニズムが働きました。
④ 「ケスタ地形・地滑り帯」による道路寸断と孤立
一時200世帯が孤立した山間部の神子原地区周辺は、地質的に斜面崩壊が起きやすい砂岩・泥岩互層などからなる急峻な山地で、局地的に「ケスタ地形(非対称な傾斜を持つ尾根)」や過去の地滑り痕跡が点在しています。 平野部を襲った雨が山間部の急斜面にも直撃したことで、神子原地区へアクセスする県道や市道において崖崩れ・土砂流入が多発し、物理的に道路が塞がれて集落が一時遮断される事案につながりました。
3. 氷見市と羽咋市の地形要因の比較
| 項目 | 富山県氷見市 | 石川県羽咋市 |
|---|---|---|
| 主な要因 | お椀状の地形と、上庄川の「狭隘・激しい蛇行」 | 邑知地溝帯(旧汽水湖・干拓地)の「天井川決壊」 |
| 浸水の特徴 | 河川蛇行部からの外水氾濫 + アンダーパスの内水冠水 | 天井川(飯山川等)の決壊による、砂泥を伴う激しい浸水 |
| 孤立の特徴 | 宝達丘陵の地滑り(熊無・吉滝などで複数発生) | 神子原地区(山間部の地滑り地帯)における大規模な道路寸断 |
災害専門家としての教訓
羽咋市の水害は、「かつて湖(潟湖)だった超低平地」に「天井川の決壊水」が流れ込むという、日本の低地干拓地における最も警戒すべき複合型水害の典型例です。
今後は、天井川である飯山川や金丸川のしゅんせつ(川底の砂利掘削)や、上流部での強力な砂防ダム・流木捕捉施設の整備といった「山・川・平野の一体的な減災対策」が不可欠です。また、住民避難においては「ハザードマップにおける旧湖底の浸水リスク」を正しく認識し、堤防から少しでも離れた頑丈な建物の2階以上に垂直避難する判断を、1時間100ミリのような雨が降り始めた瞬間に開始することが生死を分けます。
邑知潟平野周辺のDEM
せっかくなので、邑知潟周辺も低地部を強調したDEMを作ってみました。


古地図を重ねるとこんな感じです。線状降水帯がかかるようだとどうしようも無いのでしょう。
