I-1 持続可能な建設業の実現について(7)地質調査の技術者が河川砂防へ視野を広げて回答するならー令和7年度技術士第二次試験問題〔建設部門〕
河川砂防の技術者の視点で回答させても、私は太刀打ちできないので、「私は地質調査の技術者です。河川砂防にも視野を広げて回答をしたいと考えています。」と入力したら、Geminiがこう返してきた。合格する答案になるかは解らないが、いろんな話に展開出来ることは覚えておきたい。
建設部門【必須科目Ⅰ】I-1 の設問に対し、地質調査会社に勤務する技術者として、特に河川・砂防分野の視点を複合的に捉えながら、以下の通り回答します。
地質調査技術者の役割は、社会資本の「地盤」という基礎的な要素を担うことにあります。河川・砂防分野では、地盤の不安定性(斜面崩壊、洗掘、液状化)が水害・土砂災害の最大の要因となるため、地盤の専門家として災害の複合化・激甚化に対応する技術と、地域の守り手としての役割を両立させることが使命となります。
1. 3つの技術課題とその内容 (設問1)
地質調査技術者の立場から、「地盤」と「水理・防災」の複合的な観点を含め、持続可能な建設業を実現するための技術課題を抽出します。
| 観点 | 技術課題の内容 |
|---|---|
| 地域の守り手/防災 | 複合化・激甚化する土砂・水害リスクへの広域的なリアルタイム予知・監視技術の確立 |
| 内容 | 気候変動に伴う集中豪雨は、地下水位の上昇と斜面崩壊、河床の洗掘・堆積、堤防の浸透破壊といった地盤と水理現象の複合的な災害を引き起こします。従来の点的な観測や、構造物単体の監視では、この複合的なリスクを広域的かつリアルタイムで把握できません。地盤の専門家として、衛星SAR、IoTセンサー、物理探査などのデジタル技術を融合し、流域全体の地盤変状・地下水状況をリアルタイムで把握・予測し、避難行動の判断精度と速度を向上させることが最重要課題です。 |
| 生産性向上 | 初期段階の地盤情報取得と河川・砂防計画へのBIM/CIMを介したシームレスな統合 |
| 内容 | 河川・砂防事業において、設計・施工段階での地盤情報の不足や不確実性は、設計変更や工事の手戻り、資材・コストの増加を招く主因です。従来のボーリング調査は時間とコストがかかり、広域な地盤特性把握には非効率です。このため、地質調査DXを加速し、リモートセンシング(ドローンLiDAR等)や非破壊探査を活用して、地形・地質・地下水の三次元情報を迅速かつ高解像度でデジタル化します。これを河川・砂防構造物のBIM/CIMモデルにシームレスに統合し、地盤・構造物一体の計画を可能にすることで、建設プロセス全体の生産性向上に貢献します。 |
| 長寿命化/アセットマネジメント | 河川構造物および背後地盤の健全性を一体評価するデジタル維持管理手法の標準化 |
| 内容 | 堤防や砂防堰堤の老朽化対策を効果的に進めるには、構造物本体だけでなく、それを支える背後地盤の劣化や浸透状況を正確に評価することが不可欠です。地中という見えない領域の評価は、現在も技術者の経験に依存しています。このため、地中レーダーや弾性波探査を応用した非破壊検査技術を用いて、堤防内部の空洞や透水層の状況を定量的に把握します。これらのデータをデジタル化し、地盤アセットマネジメントのシステムに統合することで、予防保全の優先順位を科学的に決定する手法を確立することが課題です。 |
2. 最重要課題と複数の解決策 (設問2)
1. 最重要技術課題の選定
最も重要と考える技術課題は、複合化・激甚化する土砂・水害リスクへの広域的なリアルタイム予知・監視技術の確立です。
選定理由:
地質調査技術者は、災害の根源である地盤と水の連鎖を最も深く理解できる専門家です。近年の気候変動による災害の激甚化は、国民の生命・財産を脅かす最大のリスクであり、「地域の守り手」としての建設業の役割を果たす上で、超早期警戒体制の構築は最優先で取り組むべき課題です。
2. 複数の解決策
(1) リモートセンシングとIoTを融合した流域デジタルリスク監視網の構築
解決策の概要: 衛星SARやドローンLiDAR、低コストのIoTセンサーを組み合わせ、流域全体の地盤変状と水理データをリアルタイムで収集・統合するシステムを構築します。
技術的詳細:
広域変位の常時監視: 衛星SAR(干渉合成開口レーダー)を用いて、大規模な地すべりや広範囲の堤防・斜面の微細な地表面変位を数日〜数週間単位で常時監視し、変状の早期予兆を捉えます。
現場のリアルタイムデータ収集: 土砂災害警戒区域や堤防・砂防堰堤の危険箇所に、低価格のIoT間隙水圧計、土壌水分計、傾斜計を多数設置し、豪雨時の地盤内部の水理挙動をリアルタイムでクラウドに伝送します。
(2) 地盤・水理統合型AIによるハザードチェーン予測モデルの開発
解決策の概要: 地盤工学(浸透解析・斜面安定解析)と水理学(洪水流解析)の専門知識を統合し、複合災害の連鎖をシミュレーションできるAI予測モデルを開発します。
技術的詳細:
複合リスクのモデリング: 「豪雨→地下水位上昇による地盤強度低下→斜面崩壊→土砂流出による河川閉塞・氾濫」という一連のハザードチェーンを連鎖的に解析するデジタルツインモデルを構築します。
予測結果の可視化: 予測モデルから得られた**「崩壊発生時刻」「土砂・洪水到達時間」「浸水深」をGIS上に重ねてリアルタイムで表示し、行政や住民が直感的にリスクを理解できる緊急情報プラットフォーム**を構築します。
(3) 遠隔操作技術による災害時・復旧時における危険な現場作業の代替
解決策の概要: 災害発生直後の危険な現場への立ち入りを極力避け、ドローン、無人重機、遠隔探査機器を用いて、迅速かつ安全に調査・応急復旧を行う体制を整備します。
技術的詳細:
ドローンLiDARによる緊急地形測量: 崩壊斜面や河道閉塞現場にドローンを投入し、レーザースキャナで被災箇所の三次元地形を即座に測量・デジタル化します。これにより、技術者の危険な近接調査を代替し、応急対策の設計時間を大幅に短縮します。
遠隔地盤探査: 災害復旧現場において、可搬型の無線式物理探査装置を遠隔操作し、応急対策後の地盤の安定性や埋め戻し材の締固め状況を非破壊で安全に検証します。
3. 将来的な懸念事項とそれへの対策 (設問3)
懸念事項 1:地盤データの機密性とAI診断のブラックボックス化による責任の所在曖昧化
専門技術を踏まえた考え
地盤・河川の監視データ(地下水位、斜面変位、構造物情報)は、人命に関わる極めて重要な機密情報です。このデータがサイバー攻撃により改ざん・破壊されたり、不正に利用されたりすると、人為的な災害につながるリスクがあります。また、地盤・水理統合型AIの予測が複雑になるほど、判断根拠が不透明になり(ブラックボックス化)、災害発生時の技術者としての最終判断の責任が曖昧になる懸念があります。
対策
XAI(説明可能なAI)と技術者の最終判断体制の徹底: AIが予測を導き出した**「判断根拠」を地盤工学的に検証可能な形で可視化するXAI**を導入します。そして、AIの診断結果を鵜呑みにせず、技術者が地盤・水理の原理原則に基づき最終的な判断と責任を負う「Human-in-the-Loop」の体制を確立し、訓練を義務付けます。
OTセキュリティとブロックチェーンの導入: 監視センサーや遠隔操作システムの制御ネットワーク(OT)をサイバー攻撃から守るため、ITネットワークから分離・防御します。また、収集したデータにブロックチェーン技術を応用し、データの真正性(改ざんされていないこと)を担保します。
懸念事項 2:高度なデジタル技術導入に伴う地盤・河川技術者の技能の二極化と空洞化
専門技術を踏まえた考え
IoTセンサーの設置や解析、リモートセンシングの導入は、ICTスキルを強く要求します。このため、従来のコア観察、地質踏査、現場での水理判断といった、地盤技術者に不可欠な**「肌感覚」に基づく技能を持つ技術者と、デジタル技術を使いこなす技術者との間でスキルが二極化する懸念があります。特に、高齢技術者の引退に伴い、現場での複雑な地盤・水理現象を正確に読み解く**能力が失われ、技能の空洞化が生じるリスクがあります。
対策
「地盤防災スペシャリスト」育成のためのリスキリング: 地質調査の基礎知識に加え、河川水理、IoT、データ解析のスキルを複合的に持つ「地盤防災スペシャリスト」を育成する業界横断的なリスキリングプログラムを構築します。
VR/ARを活用した複合技能伝承: 熟練技術者による地質コア観察、浸透試験時の状況判断、豪雨災害時の斜面崩壊メカニズムの解析といったノウハウをVR/AR技術でデジタル化し、若手技術者が仮想空間で繰り返し経験できる訓練システムを開発・導入します。
懸念事項 3:地方自治体・中小企業におけるデジタル監視・維持管理の予算・人材負担
専門技術を踏まえた考え
広域リアルタイム監視システムや地盤デジタルツインの導入は、多額の初期投資と、システムの維持管理・運用を担う人材を必要とします。これは、地方自治体や小規模な維持管理業務を担う中小企業にとって大きな負担となり、地域間でのデジタル格差が生じることで、地域防災体制全体が脆弱化する懸念があります。
対策
共同利用・クラウド型サービスの推進: 高度な解析ソフトウェアや監視システムの基盤を、複数の自治体や中小企業がクラウド上で共同利用できるシェアリングサービスを国や業界団体が主導して提供し、初期投資と運用コストを分散します。
LCC評価と財政支援のセット提供: 予防保全型管理への移行に伴う初期投資に対し、国が財政支援を強化するとともに、技術者がライフサイクルコスト(LCC)評価を義務付け、長期的なコスト削減効果を明確に示すことで、地方議会や住民の理解を得るサポートを行います。
4. 業務遂行に必要な要件 (設問4)
1. 技術者としての倫理の観点
公共の安全の絶対的優先: 河川・砂防分野は人命に直結するため、地盤・水理のリスク評価において、いかなる経済的圧力や工期制約があっても、国民の安全と福祉を最優先する。
知識と技術の継続的な更新: 激甚化する災害に対応するため、地盤工学だけでなく、水理学、気象学、ICTといった関連分野の知識を継続的に研鑽し、最新の技術動向を踏まえて業務を遂行する。
誠実な情報開示と社会的説明責任: 地盤調査や監視の結果について、リスクや不確実性も含めて誠実に開示し、専門家としての知見に基づき、地域住民や関係機関に対してわかりやすい言葉で説明責任を果たす。
2. 社会の持続性の観点
レジリエンス(強靭性)の継続的な強化: 地盤・水理統合型監視・予測システムにより、平時の予防保全だけでなく、災害時の早期警戒、迅速な被害推定、応急復旧を可能にし、地域社会のレジリエンスを継続的に強化する。
生態系と調和した維持管理の推進: 河川・砂防施設の維持管理計画において、地盤の専門家として、自然素材の活用や工法を提案し、施設の長寿命化と流域生態系の保全を両立させるグリーンインフラの視点を重視する。
横断的な担い手の育成: 地質調査会社として、自社の技術者が河川・砂防分野の知識を習得し、行政やゼネコンの技術者と協働できる技術連携体制を構築することで、建設業界全体の「地域の守り手」としての持続的な担い手確保に貢献する。
