I-1 持続可能な建設業の実現について(6)河川砂防の技術者として回答するならー令和7年度技術士第二次試験問題〔建設部門〕
一度受けたものの、泣かず飛ばすの河川砂防。Geminiにやらせてみた。
建設部門【必須科目Ⅰ】I-1 の設問に対し、河川・砂防の技術者の視点から以下の通り回答します。
河川・砂防分野は、気候変動による水害・土砂災害の激甚化・頻発化という極めて大きな課題に直面しており、国民の生命・財産を守る「地域の守り手」としての役割が特に強調されます。同時に、建設業全体が抱える担い手不足や時間外労働規制への対応も必須です。
1. 3つの技術課題とその内容 (設問1)
河川・砂防の技術者として、多面的な観点から持続可能な建設業を実現するための技術課題を抽出します。
| 観点 | 技術課題の内容 |
|---|---|
| 地域の守り手/防災 | 激甚化する水害・土砂災害に対応するための広域・高精度なリアルタイム監視技術の確立 |
| 内容 | 気候変動に伴う集中豪雨により、河川氾濫や土砂災害が同時多発的に発生し、被害が広域化・複合化しています。しかし、従来の水位計や雨量計だけでは、内水氾濫や土砂移動現象、河道内の堆積状況をリアルタイムかつ広域で把握できず、迅速な避難情報の発令や水防活動に遅れが生じるリスクがあります。この課題を克服するため、レーダー、IoTセンサー、AI解析を用いたリアルタイムでの危機監視体制を構築することが不可欠です。 |
| 生産性向上 | 河川・砂防施設の整備・維持管理における現場作業の非効率性と情報連携の遅れへの対応 |
| 内容 | 河川・砂防施設(堤防、砂防堰堤、護岸等)の工事は、地形条件や出水期の影響を受けやすく、現場作業の天候依存度が高いため、時間外労働規制への対応が困難です。また、施設の維持管理においても、膨大な施設の点検は人手と紙の資料に依存し、情報が分散しています。このため、デジタル技術を活用した現場作業の効率化と、設計・施工・維持管理の情報連携を抜本的に改善し、限られた時間と人数で業務を完遂できる体制を確立することが課題です。 |
| 環境と調和 | 自然環境との調和を考慮した施設機能の長寿命化とアセットマネジメントの確立 |
| 内容 | 河川構造物は、治水・利水機能だけでなく、自然環境保全や河川空間の利用といった多面的な機能も有しています。しかし、施設の老朽化対策は進んでいるものの、施設単体の機能維持に留まり、生態系への影響や自然との調和を考慮した長寿命化計画が確立されていません。このため、グリーンインフラの視点を取り入れ、施設の長寿命化と流域全体の生態系の持続性を両立させる総合的なアセットマネジメント技術を確立することが課題です。 |
2. 最重要課題と複数の解決策 (設問2)
1.最重要技術課題の選定
最も重要と考える技術課題は、激甚化する水害・土砂災害に対応するための広域・高精度なリアルタイム監視技術の確立です。
選定理由:
建設業がその役割を果たす上で、「地域の守り手」としての責務が最も緊急性が高く、国民の生命に直結するためです。水害・土砂災害の激甚化は、担い手不足やコスト高騰といった課題と異なり、技術者の判断の遅れや予測の限界が、直接的に甚大な被害をもたらします。このため、災害リスクのリアルタイム把握と予測能力を飛躍的に高めることが、持続可能な社会基盤を維持する上での最優先課題です。
2. 複数の解決策
(1) IoTセンサーネットワークとAIによる「超早期警戒」システムの構築
解決策の概要: 河川・砂防施設、危険箇所に低コストのIoTセンサーを多数配置し、降雨・水位・土砂移動をリアルタイムで収集・解析し、AIが異常を予兆検知するシステムを構築します。
技術的詳細:
多点計測とデータ解析: 従来の特定箇所での計測に加え、支川や山間部の地すべり、土石流危険箇所に安価なワイヤレスセンサーを設置します。収集データをAIが複合的に解析し、単なる基準値超過ではなく、危険度の進展傾向を予測することで、避難勧告等の発令時間を短縮します。
気象・河川のデジタルツイン化: 河川の三次元モデル(BIM/CIM)とリアルタイムセンサーデータを統合し、洪水流のシミュレーションを即座に行い、浸水予測範囲と被害想定をリアルタイムで更新する技術を開発します。
(2) 危機管理・復旧プロセスにおける遠隔操作・自動化技術の導入
解決策の概要: 災害発生時や復旧作業において、危険な現場への技術者の立ち入りを減らし、遠隔操作や自動化により、安全かつ迅速に業務を遂行できる体制を構築します。
技術的詳細:
ドローンによる迅速な被災状況調査: 浸水地域や崩壊斜面へのドローンによる自動航行を行い、高解像度の画像・LiDARデータを即座に取得します。これにより、技術者の危険な現地調査を代替し、被災状況の初期把握を大幅に迅速化します。
遠隔操作重機による応急復旧: 孤立地域での河道閉塞の除去や緊急的な土砂撤去といった応急復旧作業を、遠隔操作可能な建設機械を用いて安全に実施します。これは、時間外労働規制下で、少人数の技術者が安全に作業を完遂するための鍵となります。
(3) BIM/CIMと環境モニタリングデータの統合によるアセットマネジメントの高度化
解決策の概要: 河川・砂防施設の構造情報(BIM/CIM)と、環境モニタリングデータを統合し、維持管理の意思決定に活用するプラットフォームを構築します。
技術的詳細:
長寿命化設計と環境配慮の融合: 施設の劣化予測だけでなく、魚類や水生生物の生息データ、水質データをBIM/CIMモデルに紐付けます。補修・改修計画を策定する際に、コストと環境負荷を両立させる最適な手法(例:環境に優しい自然素材の活用、生態系に配慮した魚道設計など)を選択できるようにします。
データ駆動型の施設点検: 点検結果と環境モニタリングデータをAIが統合解析し、補修が最も必要な施設だけでなく、環境負荷が最も少ない補修時期・工法を提示することで、持続可能な維持管理を実現します。
3. 将来的な懸念事項とそれへの対策 (設問3)
懸念事項 1:AIによる災害予測の判断ミスと過信による住民避難への悪影響
専門技術を踏まえた考え
AIによるリアルタイム監視と超早期予測が進むと、AIの予測結果が避難情報の発令に直接利用されるようになります。しかし、未学習の複合的な気象現象やセンサーの故障によってAIが誤った予測(空振りや見逃し)をした場合、住民の避難行動に対する信頼性が失われ、避難遅れによる人命被害につながるリスクがあります。
対策
XAI(説明可能なAI)の導入と技術者による検証: AIが予測を導き出した根拠(どのデータ、どのモデルを重視したか)を技術者に対して可視化するXAIを導入します。最終的な避難情報の判断は、AIの予測と河川・砂防技術者の経験的な知見を複合的に参照し、技術者(Human-in-the-Loop)が責任をもって行う体制を徹底します。
システム異常時の代替手段の確保: センサーや通信が途絶した場合に備え、従来の目視、降雨レーダーといった代替的な監視手段を直ちに発動させる非常時のマニュアルと訓練を整備します。
懸念事項 2:広域監視システムに必要な通信インフラの脆弱性とサイバー攻撃リスク
専門技術を踏まえた考え
河川・砂防の監視システムは山間部や広大な流域に展開され、センサーとクラウド間を繋ぐ通信インフラに大きく依存します。災害発生時の通信途絶や、予測システムへのサイバー攻撃により、監視データが遮断されたり改ざんされたりすると、災害対応の中核が機能不全に陥り、地域の安全が脅かされます。
対策
通信手段の多重化(冗長化): 重要な監視データについては、有線、無線、衛星通信など複数の通信手段を組み合わせた冗長性の高いネットワークを構築します。また、現場のエッジ端末にも一時的なデータ保存機能を持たせます。
セキュリティ体制の強化: 監視・予測システムへのアクセスに対し、ゼロトラストセキュリティモデルを適用し、通信内容の暗号化と厳格な認証を徹底します。特に、**水門や放流設備の制御システム(OT)**をITネットワークから分離し、サイバー攻撃から守ります。
懸念事項 3:自然環境への配慮を欠いたデジタル技術導入による生態系への影響
専門技術を踏まえた考え
河川や砂防施設へのIoTセンサーや監視カメラの多設置、遠隔操作重機による迅速な復旧作業は、効率を高める一方で、河川環境や野生動物の生息地に意図しない影響を与える可能性があります。例えば、センサーの電源確保のための工事や、復旧時の重機の迅速な導入が、貴重な生態系を破壊する懸念があります。
対策
生態系に配慮したセンサー設計と設置基準: センサーやカメラの設置場所は、専門家(河川生態学など)の知見を取り入れ、環境への影響が最小限となるように決定します。電源には太陽光発電などを利用し、環境負荷の低い資材を選定する基準を設けます。
環境モニタリングの義務化: 施設の維持管理や改修工事の前後で、水生生物や植生の変化を継続的にモニタリングし、技術導入が環境に与えた影響を定量的に評価することを義務付け、その結果を次の対策にフィードバックする仕組み(モニタリング・フィードバック)を構築します。
4. 業務遂行に必要な要件 (設問4)
4.1 技術者としての倫理の観点
公共の安全の絶対的優先: 河川・砂防技術者は、洪水や土砂災害に対する国民の生命・財産の保護を最優先とし、コストや工期、時間外労働規制といった制約があっても、適切な防災対策と施設整備を妥協なく推進する責任を果たします。
予測技術の限界の明示と説明責任: AIによる予測や早期警戒システムを利用するにあたり、技術的な限界や不確実性を理解し、その情報が地域住民や関係機関に伝わるよう、専門家としての誠実な説明責任を果たします。
自然への謙虚さと倫理的配慮: 河川・砂防技術は自然を相手にするものであり、生態系保全に対する倫理観を持ち、環境と調和した対策を選択するよう努めます。
4.2 社会の持続性の観点
流域全体のアセットマネジメントの実現: 施設単体の長寿命化だけでなく、流域全体を視野に入れた治水・環境機能の維持・向上を目的としたアセットマネジメントを確立し、将来世代に過度な財政負担を残さないよう取り組みます。
地域防災体制の持続的な担い手の育成: 地理情報システム(GIS)、IoT、AIといった新しい技術を使いこなせる高度な防災技術者を計画的に育成し、地方自治体や地域建設業と連携することで、地域の守り手としての役割を将来にわたって継続できる体制を構築します。
気候変動への適応とレジリエンスの強化: 施設整備の計画において、将来の気象変化(降雨量の増加、極端な現象の増加)を考慮した「気候変動適応策」を組み込むことを義務化し、社会資本のレジリエンス(強靭性)を絶えず強化することで、社会の持続性に貢献します。
