明治の「おいしい牛乳」は確かにおいしい

明治のおいしい牛乳は確かに美味しいと思う。
うちの子ども達の定番は、「おいしい牛乳」とにんじんベースの野菜ジュースである。

僕が言うよりも子どもたちの方が正直である。
動物園などに行くときに、時々昼ご飯にパックの牛乳を欲しがるときがあるのだが、コンビニやスーパーで指さすのは「おいしい牛乳」である。
少し高いのだが、確かに美味しいのだろう。

こういう製品の差別化の研究は1年や2年で出来ているわけではなく、80年代に牛乳が全然売れなくなったときから始まり、技術が確立するのに約10年を費やし、販売されたのが02年と言うから、気の長い話だ。

今月の出来高がどうのこうの言っている焼き畑企業とはわけが違う。
こういう種を蒔き続けていないと、企業は生きていけない。

「とにかく差別化できる“おいしい牛乳”を」開発秘話 | 新・会社論

とにかく差別化できる“おいしい牛乳”を」開発秘話
「ひと味違う技術」で3大逆風に勝つ[明治HD【3】]
プレジデント 2009年8.17号

本当においしいから自発的に飲もうとする牛乳へ、つまり「義務飲料から自発飲料へ」牛乳を変身させることを目指したのだ。

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では、明乳をめぐるマーケットの状況はどうだろうか。明乳の主力商品(売上高約2800億円)の市乳(一般市場で販売される牛乳)に限って見ると、少子化と他の飲料の影響が如実に表れている。

総務省の国勢調査によれば、牛乳を最も飲む5~14歳人口の構成比は、80年で16.2%。これが07年には9.3%まで減少。農水省の牛乳乳製品統計によると、03年に447万8000キロリットルあった飲用牛乳生産量(生産量=消費量と考えていい)は減少を続け、08年には391万9000キロリットルまで下落した。

一方、茶系飲料、ミネラルウオーター、野菜飲料の市場は、軒並み右肩上がりの成長を続けている。全国清涼飲料工業会統計資料によれば、ミネラルウオーターの場合、00年と07年の比較で、実に215%の伸び率だ。明乳・市乳販売本部長の野中謙一が言う。
牛乳市場低迷でも「おいしい牛乳」は健闘
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牛乳市場低迷でも「おいしい牛乳」は健闘

「牛乳の消費量は減り続けていますが、やはり牛乳を大量に飲む若い世代が減少しているのが最大の原因。ペットボトルに消費を取られた面も否定できません」

さらに、牛乳は差別化がしにくい商品でもある。どれを買っても中身は同じというイメージが強いため、PBとの価格競争に巻き込まれやすく、利益率が極めて低い。08年度の乳製品事業(チーズ、ヨーグルト等を含む)の利益率は1.8%。乳業会社に生乳をおろす酪農家も儲からず、酪農家の疲弊も著しい。

酪農家救済の趣旨で、08年4月と09年3月、立て続けに2回、乳価の引き上げが行われたが、PBが幅を利かせる市乳マーケットでは乳価の引き上げ分を小売価格に転嫁することが難しく、極めて悪い循環に陥っているのが現状だ。

むろん、明乳はこうした市場の変化に手をこまねいていたわけではない。差別化が困難な牛乳の世界で、差別性のある商品を生み出すという離れ業をやってのけた。それが、「明治おいしい牛乳」だ。「おいしい牛乳」はオープン価格だが、小売店での売価はPBに比べて50~60円近くも高い。にもかかわらず、02年の全国発売以降着実に売り上げを伸ばし、07年には単一ブランドで約470億円を売り上げるまでに成長した。07年の日本全体の普通牛乳の市場は約5400億円だから、10分の1弱を「おいしい牛乳」が占めたことになる。値段の高いNBがこれだけのシェアを取るのは、驚異的と言っていいだろう。市乳販売部長の竹山五城が言う。

「とにかく差別化できる“おいしい牛乳”を」開発秘話 | 新・会社論

「80年代の後半から牛乳の価格競争が激しくなって単価が下がり、利益構造が悪化するという悪循環が顕在化してきました。さらに、牛乳を飲む世代の人口が少なくなってきた。そこで当時の中山悠社長(現会長)が、とにかく明確に差別化ができるおいしい牛乳をつくれと号令をかけました。これが『おいしい牛乳』開発のきっかけです」

竹山によれば、従来の牛乳は栄養を摂取するために飲まねばならない“義務飲料”だった。味や臭いが嫌いなのに、親から強制されて飲んでいる子供が多かったのだ。そこで明乳は、他社の牛乳よりも明らかにおいしい牛乳をつくろうと考えた。産地、乳脂肪分、価格によって差別化を図るのではなく、本当においしいから自発的に飲もうとする牛乳へ、つまり「義務飲料から自発飲料へ」牛乳を変身させることを目指したのだ。
明治乳業十勝帯広工場(北海道帯広市)。主にナチュラルチーズを生産。配管のなかを通っているので生産の過程で商品を目にすることはほとんどない。
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明治乳業十勝帯広工場(北海道帯広市)。主にナチュラルチーズを生産。配管のなかを通っているので生産の過程で商品を目にすることはほとんどない。

約10年におよぶ研究によって、牛乳特有の臭気は、加熱殺菌の際に溶存酸素が牛乳の成分を酸化させるため発生することを突き止めた。溶存酸素の影響を排除するナチュラルテイスト製法を確立したのが98年。東北地方でのテスト販売の成功を受けて、「おいしい牛乳」が全国販売されたのが02年である。

明乳は「おいしい牛乳」以外にも、国産初の本物のヨーグルト「明治ブルガリアヨーグルト」やLG21乳酸菌を配合した「明治プロビオヨーグルトLG21」など、業界に先駆けて新しい商品を生み出してきた歴史を持っている。市乳マーケティング部長の佐藤精一が言う。

「LG21の話は薬事法の絡みがあるので話しにくいのですが、胃潰瘍や胃がんとピロリ菌が関係あると指摘されたのが25年ほど前。弊社は抗ピロリ菌について東海大学と共同研究を進めるなど、乳酸菌の新しい可能性を追求し、そして00年にLG21を発売しました。発売当時、ピロリ菌の認知度はほぼゼロ%。知っているという人の答えが、『水虫の菌』(笑)。こんな状況からスタートして、今や年間売り上げ約300億円です」

佐藤は、薬事法の縛りを回避する巧みなマーケティング戦略をとった。第1段は、ピロリ菌に関する啓蒙活動。第2段は、LG21乳酸菌がピロリ菌に有意に働く“らしい”ことを、商品の話を一切せずにマスコミに向けて報道。そして、商品発売直前
に、明乳はピロリ菌を研究していると新聞に全面広告を打った。この3段階の広告宣伝活動に、佐藤は約3カ月の期間を費やしている。

さて、こうして見てくると、明菓も明乳も明らかに技術オリエンテッド型の企業であり、PBや安売りに走るのではなく、技術革新と不断の広告宣伝活動、地道な営業努力によって新しい市場をつくってきたことがよくわかる。いずれも、ごく真面目な、愚直な企業なのである。

しかしながら、菓子と同様、国内の牛乳マーケットが今後拡大する可能性は、ほとんどない。明菓、明乳ともに、中核事業でマーケットの成長が見込めない局面に立たされていることは間違いないのだ。そして、いずれの事業も極めて利益率が低い。統合の目的は、この状況からの脱出以外には、考えられないのである。
(文中敬称略)

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